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終止符.
第8章 転機
「嘘でしょう?奈緒、どうして?」

退社後のファミレスで沙耶が泣きそうな声を上げる。

「そうだよ。突然すぎる、辞めるなんて。」

千秋も驚いて奈緒を見つめた。

「だから突然じゃないように、今話してるんだって。」

入社以来一緒に過ごしてきた仲間に納得してもらう理由が思い付かない。

「どうしてなの?働き易い職場だよ。」

「アタシもそう思う。」

「……だから…職場の問題じゃないんだよね。」

「じゃあ、なに?」

「なんだか、もっと…違う事もやってみたくなって。」

「なにするの?」

「まだ分かんない。」

「奈緒、再就職なんて、簡単じゃないわよ。」

「でも、経理経験者は結構募集あるのよ。」

「は?」

二人が呆気にとられた顔をする。

「あのさ、違う事をやってみたい人が、また経理やるの?」

「………」

「ようするに変化が欲しいんだね、奈緒は。」

千秋が助け船を出した。

「そう!それ。」

「へんなの。」

沙耶は腑に落ちない。

「だって二人は、付き合ってる人もいて、それなりに楽しんでるだろうけど……それに、これからはそっちが大事になるでしょう?」

「……」

「ごめん。アタシはそうかも。」

千秋が言った。

「ねえ千秋、結婚するの?」

沙耶が聞く。

「たぶん。」

「きゃー、おめでとう。」

「よかったね千秋。」

「ふふっ、ありがとう。まだ何も決まってないんだけど、決めた。」

「彼に決めた!」

「やだ、沙耶ったら。」

「あははは。」

話が逸れて、奈緒はほっとした。

それぞれに道は分かれ、いつまでも一緒にはいられない。

道の途中で別れて、再び会う事のない人もたくさんいる。
転機が訪れる度に、出会いと別れが繰り返される。

奈緒は二人を見つめながら、もう、今までのように嘘をつく必要はなくなる、秘密を隠しているという後ろめたさからも解放される、と少しほっとした。

早く過去の事にしてしまいたい。


黙っててごめん。
嘘ついてごめん。


奈緒は二人に詫びた。

「寂しくなるなぁ。」

沙耶が言う。

「そうだよぉ。」

千秋が言う。

「私も寂しい。」

奈緒が答える。

「気が変わればいいのに。」

沙耶がぽつりと呟いた。

「寂しいけど…前に進みたいの。」

沙耶と千秋は顔を見合わせてため息をついた。


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