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終止符.
第8章 転機
変わりない日々が続く。

仕事の合間に篠崎を見つめれば、軽い痛みを伴って切ない思いが胸を締め付ける。

想いを残したままで、去って行かなければならない。

いつ切り出そうか。

退職願いを書いたものの、出すタイミングを図りかねていた。

「篠崎部長とも、会えなくなるんだよ。」

何も知らない沙耶がからかう。

「あぁ、それだけが心残り。」

「あははは。」

「うふふ。」

「部長にはいつ?」

「考え中。」

「びっくりするわよきっと。」

「うん。」





暑さが和らぐ事なく9月に入っていた。

純の部屋からゴトゴトと音が響いてくる。

荷物を片付けているらしく、時折ドアの向こうから、若者らしい数人の笑い声が聞こえる。

旅立ちの準備だ。

純は全てを片付けて、旅立とうとしている。

物音がしなくなった事に気付いた頃、玄関のチャイムが鳴った。

「はい。」

「純です。」

ドアを開ける。

「奈緒さん。僕、明日出発します。」

「そう、いよいよね。」

「はい。これから友達と食事に行くんです。」

「送別会?」

「ハハ…そうですね。」

「明日は何時に?」

「朝6時半にはここを出ます。」

「そっか。」

「明日…駅まで送ってくれませんか?」

「…いいわよ。」

「本当に?早いですよ。」

「早起きするわ。」

「ありがとうございます。…あの…」

「なに?」

「あのパズル掛けてくれましたか?」

「もちろん。お陰で部屋が明るくなったわ。」

「よかった。自転車も使ってくださいね。」

「ありがとう。」

「これ、自転車の鍵です、はい。」

「あぁ、ありがとう。」

奈緒が受け取ろうと差し出した手を、純が掴んだ。

「!」

奈緒を押しながら玄関に入ってくる。

「純。」

「……」

「離して。」

純に抱きしめられる。

「離しなさい。」

「…もう少しだけ…」

純の鼓動が伝わる。

「……」

「キスしてもいい?」

「だめ。」

「奈緒さん。」

「お願い、離して。」

「寂しい…」

純の腕に力がこもる。

「……」

「あなたは、大丈夫よ…」

「奈緒さんは?」

「私は平気よ。」

「……抱きしめて。」

「えっ?」

「僕を抱きしめて…」

「……」

奈緒はそっと純の広い背中を抱きしめた。

汗の匂いがした。


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