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終止符.
第8章 転機
草蒸した若い香りが純の匂いだった。

目を閉じて深く息をする。

「行くのやめようかな。」

「あなたの送別会でしょう?」

「違います…アメリカに。」

「ぷっ…」

「…キスしたい。」

「明日、送ってあげないわよ。」

「う……我慢します。」

純は奈緒から離れ、自転車の鍵を手に握らせた。

「ありがと。」

「それじゃあ明日。」

「あまり遅くなると起きられないわよ。」

「あ…」

「なに?」

「しまった!」

「何なの?」

「布団が…」

「えっ?」

「布団がない。」

「えぇっ!」

「僕の部屋何もないんです。」

「……」

「奈緒さんお願いが…」

「ダメ。」

「お願いします!」

「枕を貸してあげるわ。」

「そんな…」

「夏なんだから枕があれば十分でしょう?」

「寂しいな。」

「じゃあ、タオルケットも。」

「奈緒さんのケチ。」

「あなたと一緒に寝るわけにはいかないでしょ!」

「何もしません。」

「本当に?」

「はい。」

「本当に?」

「はい!」

奈緒は純の目を覗き込んだ。

「嘘つき。」

「そんなぁ。」

奈緒は部屋から枕とタオルケットを取ってきて純に渡した。

「はいこれ。」

「…………ありがとうございます。」

「なにか不満でも。」

「ありがとうございます!」

「ふふっ、どういたしまして。」


「あの、部屋の鍵の事、よろしくお願いします。」

「わかってる、大家さんにちゃんと渡すわ。」

「それじゃあ、いってきます。これ、お借りします。」

「いってらっしゃい。楽しんでね。」

ドアの向こうに消えた純が、一度部屋に戻った後、階段を駆け降りてゆく足音を確かめ、奈緒は一人でクスクスと笑った。

純といると笑顔になれた。
旅立つ若者を笑顔で見送ろう。明るい未来への旅立ちを心から祝福しよう。

ふと、純が残していった匂いに気がついた。

もうすぐ、抱きしめてくれる人は誰もいなくなる。
好きだと言ってくれる人もいなくなる。

本当に一人になってしまう。


壁に掛かった夏の景色は、「笑ってて。」と言っているようだった。


前に進もう。

純みたいに。

月曜日に退職願いを提出しよう。


奈緒は沙耶と千秋にメールを送った。

自分自身の決心が、揺らがないように。


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