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終止符.
第10章 寂寥(せきりょう)
しばらく部屋の中をうろうろと歩き回り、ソファーに腰を下ろして気持ちを落ち着かせようとしていると、通話の着信を知らせるバイブ音が再び奈緒を驚かせた。

篠崎だった。

深呼吸を一つして、迷いながら電話に出る。

「はい。」

「奈緒、私だ。」

耳元で名前を呼ぶ声に、気持ちが揺らめく。

「……はい。」

「今、駅にいる。」

「えっ…」

「メール見た?……訪ねてもいいのかな。」

「見ました。……」

奈緒は必死に答えを探した。

「…それで…」

「あ、あの…ここに来る途中に公園があるんです。」

「あぁ、知ってる。」

「…そこで、構いませんか?」

「もちろんだよ。」

「直ぐに向かいますから。」

「それじゃあ、あとで。暗いから気をつけてね。」

「はい。」

奈緒は電話を切るとすぐに、ジーンズと薄手のセーターに着替えた。
鏡の前に立ち、髪をとかし口紅をひき直す。


落ち着いて

何でもない
何でもない

沙耶に尋ねた事を、私にも聞きたいだけ

それだけ


二人で会う事の理由はどうでもよかった。

崩れそうな自分の心を押し留めておく自信がない。

事務的なやり取りだけで過ごす職場でなら誤魔化せる。

でも今は…。


後戻りしたくない。


それだけを自分に言い聞かせ、自転車の鍵を持って部屋を出た。


「純、借りるね。私を助けて。」


サドルがやけに高い。

奈緒は苦笑しながらサドルを調節し、ブレーキを確認してからこぎだした。

月が真上に見えた。

坂道を下る。

ひんやりとした夜風を頬に受け、髪をなびかせながら静まり返った道をゆく。

奈緒はふと、篠崎がなぜそんなに純に興味を示しているのか不思議に思えた。

純は今留学中だという事を知っている筈だ。

もしも就職の事であるなら純の意向はなおざりにされている。

なぜ今
なぜここまで…


奈緒はどこか腑に落ちない疑念を抱きながら公園の入口で自転車を降りた。

鈴虫の声が公園の静けさを和らげていた。

中央にある外灯がぼんやりと周囲を照らし、公園を四方から照らす外灯が奈緒を安心させた。

人の気配に目を向けると高校生位の男女が三人、滑り台を逆から昇り、また滑っては無邪気に笑い声を上げた。

奈緒は篠崎がまだ来ていない事を確認し、緊張を静めようと胸に手を当てて息を整えた。


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