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終止符.
第10章 寂寥(せきりょう)
「やあ、ごめん、待たせたかな?」

そう言いながら篠崎が近づいて来る。

「今来たところです。お疲れさまです部長。」

奈緒は仕事帰りで少し疲れた様子の上司に、部下らしい挨拶をした。

篠崎は奈緒を優しく見下ろし、懐かしげな表情で少し微笑んだ。

「こんな時間にすまなかった。このところ雑用に追われて余裕がないんだ。」

「そのようですね。」

「ん…、珍しいね。きみの自転車?」

篠崎が自転車に目をやった。

「えぇ、でも譲ってもらったんです。」

「そう。…ジーンズか珍しいね。」

「………」

「どこかに座ろうか。」

「あの東屋なら。」

「あぁ、ここよりはマシだな。ちょっと休みたい。」

奈緒は自転車を押しながら、篠崎の少し前を歩いた。

緊張で手が冷たい。
胸が苦しい。

奈緒は東屋の横に自転車を止め、先にベンチに腰掛けるよう手で促した。

篠崎は持っていた通勤カバンの中から缶コーヒーを二つ取り出すと、一つを奈緒に手渡した。


「まだ温かいよ。」

「ありがとうございます。」

「掛けよう。」

「はい。」


奈緒は篠崎が座ってから身体一つ分離れて横に座った。


「大丈夫かい?」

「えっ?」

「君は大丈夫なのか?」

篠崎が奈緒の横顔を見つめた。

「大丈夫です。」

奈緒は前を向き、胸の前で缶コーヒーを握り締め、冷たくなった両手を温めた。

「聞きたい事って何ですか?」

奈緒は篠崎から目を離したままで問い掛けた。

「あぁ…彼の、谷口君の事でちょっと…」

「はい。」

「……彼のご家族は…」

「えっ?」

「ご両親の事について何か知っているかな?」

「……………」

奈緒は答えなかった。

「どうしてそんな事を知る必要があるんですか?」

「それは…、ちょっと事情があって言えない。……もし君が知っているなら教えてもらいたいんだ。」

奈緒は篠崎を見た。

それは、必死になっているというよりは、悲しみや切なさを隠しているような複雑な表情だった。

「父親はいません。」

奈緒は答えた。

「…どうして。」

「生まれた時にはいなかったようです。」

「……そう…」

奈緒は次の質問を待った。

「母親は?」

「昨年亡くなったと聞いています。天涯孤独になったと。」

「…そう…か…」

「はい。」



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