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終止符.
第10章 寂寥(せきりょう)
篠崎はカチッと缶コーヒーのフタを開け、ゆっくりと一口飲んで喉を鳴らすと、ベンチにそっと置いて腕組みをした。

「…………」

篠崎は黙っていた。

「何か問題があるんですか。」

「…………」

腕を組んだまま前をじっと見ている。


「彼の就職に不利とか…」

「いや…」

「…………」

「今は軽々しく口を開くわけには…」

篠崎は独り言のように呟いた。

「そうですか。」

「…………」

奈緒は少し苛立った。


こうしてわざわざ訪ねてくるのなら、私だけには何か打ち明けて欲しい。


自分勝手なプライドが頭をもたげ、奈緒は傷付いた。

先程までの緊張がほどけてきた。
甘い感情は隅に追いやられ、軽い失望が胸に広がる。


人影はなくなり鈴虫の鳴き声だけが辺りに響く。

しばらくの沈黙の後、篠崎が口を開いた。

「はっきりした事が分かったら必ず知らせるよ。あ…、一応聞いておこうかな。」

「何ですか?」

「彼の誕生日は…」

「7月30日です。」

「7月30…それで、留学期間とかは…」

「半年だと思います。大学との調整が上手くいきそうだとほっとしていましたから、…来年の春には…」

「嘘だろう…どうして君…」

「嘘なんか言ってません、純がここで私に話してくれたんです。」

「…………」

「…………」

「ここで?」

「えっ?…」


奈緒は我に返った。
奈緒は喋り過ぎた。

じんわりと背中に汗が滲む。
頭の中は真っ白になった。
ドキドキと鼓動は速くなり唇が震える。


「寺田さんにも尋ねたんだよ。 彼女は、君に聞いても分からないかも知れない、って言っていたけど……そうでもなかったみたいだね。」

「………」

奈緒は缶コーヒーを握り締めながら呆けたように篠崎を見つめた。

「奈緒…私は少し、君への罪悪感から逃れてもいいのかな?」

「部長…私はただ…」

「奈緒…」

篠崎は奈緒を優しく抱きしめた。

「奈緒…君の自転車…彼の名前が小さく書いてある。」

耳元で篠崎が囁いた。

「えっ。」

奈緒は驚いて篠崎から離れ自転車を見回した。
そして後ろの反射板の上部に小さく『谷口純』と横に書かれた文字を見つけた。

「………」

呆然と立ち尽くす。


何か言い訳を…


「君のアパートの駐輪場でよく見かけた自転車だ。」


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