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終止符.
第10章 寂寥(せきりょう)
「………」

何も言えない。

秘密を黙っている事は平気だった。
けれども嘘を並べて誤魔化し通す事は得意ではなかった。


純のばか…
私の大ばか…


奈緒はしばらく自転車を眺め、ベンチに戻ると、温くなった缶コーヒーのフタを開けてゴクゴク飲んだ。

篠崎は奈緒の隣に座り、黙ってそれを見つめていた。

「彼は…同じアパートの住人だったんです。」

奈緒は隠せなかった。

「………」

「隣の部屋に住んでいました。」

「………」

二人は並んで前を向いたまま、のら猫が通り過ぎるのを見ていた。

「彼は…部長と私の事を知って…」

「奈緒…もういい。」

篠崎は奈緒を見つめた。

「いいんだ。」

「どうして…」


妬かないの?


「奈緒…、身勝手な事をしていながら私は…父親になろうとしている。」

「……」

「君にも、妻にも、すまない事をしてきた。」

「私が始めた事です。」

「奈緒、君を笑わせる事ができるのは私ではなかっただろう?」

奈緒は篠崎の目を見つめながら言った。

「私は、…とても幸せでした。」

「………」


あなたは?

本当は私を愛してくれているでしょう?


「部長…もしも私が別れを切り出さなかったら、どうなっていると思いますか?」

「きっと、周りのすべてを不幸にしただろう。」

「何の罪もない奥様の事も。」

「何があっても…妻を不幸にはできない。」

篠崎が初めて妻への気持ちを口にした。


──何があっても


「………」


──妻を不幸にはできない。


刺激的で甘く、密やかに燃え上がった奈緒の二年半が粉々に砕け散った。

妻に隠し通した篠崎。

優越感に酔いしれていたおめでたい自分。


「それなら私に感謝してもらわなくちゃ…」

奈緒は微笑みながら言った。

「奈緒。」

「そろそろ帰りましょう。」

奈緒は立ち上がった。

「あぁ、送るよ。」

「自転車ですから、大丈夫です。」

「そういうわけには…」

「ずっと部長を見送って来たんですから…ふふっ。」

「すまなかった。」

二人は歩き出した。

自転車を押しながら篠崎の後ろ姿を見つめる。

手を繋いで歩いた事も、並んで歩いた事さえもなかった。

そこは妻の場所だった。

ふと月を見上げる。


無様な私を笑えばいい。
いつもそこにいたんでしょ。


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