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終止符.
第10章 寂寥(せきりょう)
前を歩く篠崎の背中が他人のように思えてくる。

信じて疑わなかった愛は、熱く痺れさせてくれた夜は、篠崎にとってただの寄り道に過ぎなかったのだろうか。


公園の出口付近まで来た時、奈緒は胸の奥から怒りに似た感情が沸き上がってくるのを感じて足を止めた。

「奈緒。」

気配に気付いた篠崎が、振り向いて奈緒を見つめる。

「部長…」

奈緒は自転車を止めて篠崎と向かい合った。

「どうした。」

篠崎は奈緒を優しく見つめて微笑んだ。

「7月30日は、純の21才の誕生日だったんです。」

微笑みを返しながら、奈緒は静かに語りかける。

「あぁ。」

「部長…、その日の事を覚えていますか?」

奈緒は呼吸が乱れそうになるのを笑顔で必死に隠しながら篠崎に問い掛けた。

「ん?」

篠崎は何かを思い出そうとしていたが、首をかしげながら奈緒に聞いた。

「何かあったかな?」

「部長が出張を終えて、私のアパートへ来る約束をした日です。」

「そう…」

奈緒と会う時は出張を終えてからの事がほとんどだった篠崎は、まだ思い出す事ができずにいた。

「部長が私を訪ねた時に、私が帰宅してなかった日…」

「あぁ…思い出した。」

篠崎は柔らかく笑って奈緒を見た。

「たしか、君が帰る途中で具合が悪くなったって…」

「えぇ、その日です。」

「覚えてるよ。…そうだ君の部屋の前でメールして…、電話もしたかな?」

奈緒は冷静に篠崎を見て頷いた。

「えぇ、そうでしたね。そのすぐ後に、部長は奥様に…、愛子さんに電話を掛けていました。」


奈緒は悲しくなった。


「…今なんて…」

「愛子さんに、思ったより早く帰れそうだって…」

「どうしてそれを……、君は…帰っていたのか? なぜ、ドアを開けなかった……どうして私からの電話に出なかったんだ。」


奈緒は迷わなかった。


「純の部屋にいたから…」

「えっ?」

「純の部屋の玄関で彼に押さえつけられていたから…」

「なんだって?」

篠崎は奈緒の目を見つめたまま、奈緒の言葉を理解しようと必死だった。

奈緒は篠崎に冷やかな作り笑いを浮かべながら両手をぐっと握り締めた。
自分が何を言い出そうとしているのかはわかっていた。

それでも怒りと悲しさをぶつけたい。

苦悩の色を浮かべて欲しい。

一瞬でいいから


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