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終止符.
第10章 寂寥(せきりょう)
「彼にプレゼントを渡しに行ったんです。…部長が来る前に部屋に戻るつもりでした。」

「………」

「玄関で立ち話をしている時に部屋のチャイムが聞こえたので私、急いで戻ろうしたんです。」

篠崎は真剣に奈緒を見つめたまま黙っていた。

「でも…純が私を捕まえて、…私、口を塞がれて…」

「奈緒…」

「携帯には出られなかった…部長が奥様に電話している声が聞こえました……とても、優しいんですね……それから、階段を下りて行く足音がして……凄く…辛かった。」

「奈緒。」

奈緒の肩に触れようとした篠崎の手を後ろに下がって避けた奈緒は、隠しておきたかった自分の過ちを、微笑みながら吐露し続けた。

「突然純が…忘れさせてやるって…ふふっ…そう言ってベッドに…」

「よせ、もういい。」

篠崎はまた腕を伸ばしたが、奈緒はまた下がった。

「部長は、帰ってから奥様と何をしていたんですか?」

「………」

篠崎は取り乱した奈緒を初めて見た。
奈緒はいつでも冷静で、自分の立場をわきまえていた。

だが目の前にいる奈緒は、自分の事を暴露しながら、その眼は明らかに篠崎を責めていた。

「私、…部長を裏切りました……純に…、…感じてしまって…バスルームでも…立ったまましたわ… 一晩中、彼に何度も何度も…」

「やめてくれ!」

篠崎は奈緒を抱きしめていた。

「………」

鼓動が伝わってくる。
篠崎の匂いが懐かしい。
外で抱きしめてもらったのは初めてだ。

「奈緒悪かった…」

篠崎の腕は力強く奈緒を抱きしめて離さず、篠崎の声は胸に響いた。

奈緒の心は平静を取り戻そうとしていた。

奈緒は目を閉じて篠崎の最後の抱擁を忘れまいと思った。

「部長…私の事を愛してくれていましたか?」

「あぁ、君に夢中だった」

「どんな所が?」

「妻とはまったく違う君に溺れたよ。」

「奥様は…どんな方ですか?」

奈緒は一度も聞いた事がなかった妻の事をようやく口にした。

「妻は…私しか知らない。私だけを信じているだろう。高校生の時から見守って来たからね。」

「大切ですか?」

「奈緒…」

「何があっても不幸にはできない?」

奈緒は篠崎の腕の中で妻への思いを聞いていた。

「…あぁ。」

「…部長…もう、離して下さい…」

奈緒が篠崎の腕の中から離れた時、篠崎の携帯が鳴った。


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