この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
終止符.
第10章 寂寥(せきりょう)

「部長、構いませんから、電話に…」
電話に出るのをためらっている篠崎に、奈緒は出るように促した。
「ごめん。」
篠崎はそう言って携帯を耳に当て、奈緒に背を向けた。
「はい…あぁ、どうした……うん、…えっ?……ちょっと待って、愛子、そこにじっとしてるんだ、いいね…大丈夫、曽根さんに連絡してすぐに来て貰うからね、私もすぐに行く、…あぁいいんだ…危ないから、そこにじっとしてなさい、いいね。」
篠崎は青ざめた様子で急いで電話を切ると、すぐにどこかへかけ直した。
「………」
奈緒は顔をひきつらせて焦っている篠崎を初めて見た。
「あ、もしもし曽根さん? 夜分遅くに申し訳ありません…えぇ、じつは愛子が破水したらしいんです、私は今出先で、…よくわからないんですけど、彼女慌てていて……はい、はい…そうですね、すぐに向かいます、えぇ、はい…予定日、予定日え~っと…あ、12月2日です、はい、…ありがとうございます。いつもすみません、それじゃあ、後で…はい、よろしくお願いします。」
篠崎はほっとしたようにため息をついた。
「大丈夫ですか?」
「あぁ、たぶん…ごめん、奈緒、すぐに病院に行かなきゃならない。」
篠崎は早足で歩き出した。
「奥様のお母様に連絡は?」
奈緒は篠崎の背中に呼びかけた。
「母親はいないんだ、ずっと前に亡くなった。…奈緒ごめん。もう行くよ。」
振り向いてそう言うと、すぐに前を向いて歩き出し、また電話を掛けていた。
「もしもし愛子、すぐに曽根さんが来てくれるからね、一緒に病院に行くんだよ、私もすぐ行くから、……大丈夫だよ絶対大丈夫だ──」
何度もつまずきながら公園を出て、自転車や通行人とぶつかりそうになりながら先を急ぐ。
篠崎の姿が遠退いて行くのを、奈緒はぼんやりと眺めていた。
篠崎は迷わず奈緒を残して行った。
篠崎は奈緒に大変な事が起きても、すぐに駆けつけて来られない、人様の家族だった。
『あなたはきっと深く傷付く。』
『あなたは何もわかってない。』
純の言葉が頭に浮かぶ。
「わかっていたわ…ちゃんとわかってた…」
奈緒は自転車を押しながら公園を出て、アパートへ向かって歩き出した。
坂道を上りながら、さっき見た篠崎のカッコ悪い後ろ姿を思い出した。
家族の元へ戻って行く男は、なりふり構わぬ姿だった。
電話に出るのをためらっている篠崎に、奈緒は出るように促した。
「ごめん。」
篠崎はそう言って携帯を耳に当て、奈緒に背を向けた。
「はい…あぁ、どうした……うん、…えっ?……ちょっと待って、愛子、そこにじっとしてるんだ、いいね…大丈夫、曽根さんに連絡してすぐに来て貰うからね、私もすぐに行く、…あぁいいんだ…危ないから、そこにじっとしてなさい、いいね。」
篠崎は青ざめた様子で急いで電話を切ると、すぐにどこかへかけ直した。
「………」
奈緒は顔をひきつらせて焦っている篠崎を初めて見た。
「あ、もしもし曽根さん? 夜分遅くに申し訳ありません…えぇ、じつは愛子が破水したらしいんです、私は今出先で、…よくわからないんですけど、彼女慌てていて……はい、はい…そうですね、すぐに向かいます、えぇ、はい…予定日、予定日え~っと…あ、12月2日です、はい、…ありがとうございます。いつもすみません、それじゃあ、後で…はい、よろしくお願いします。」
篠崎はほっとしたようにため息をついた。
「大丈夫ですか?」
「あぁ、たぶん…ごめん、奈緒、すぐに病院に行かなきゃならない。」
篠崎は早足で歩き出した。
「奥様のお母様に連絡は?」
奈緒は篠崎の背中に呼びかけた。
「母親はいないんだ、ずっと前に亡くなった。…奈緒ごめん。もう行くよ。」
振り向いてそう言うと、すぐに前を向いて歩き出し、また電話を掛けていた。
「もしもし愛子、すぐに曽根さんが来てくれるからね、一緒に病院に行くんだよ、私もすぐ行くから、……大丈夫だよ絶対大丈夫だ──」
何度もつまずきながら公園を出て、自転車や通行人とぶつかりそうになりながら先を急ぐ。
篠崎の姿が遠退いて行くのを、奈緒はぼんやりと眺めていた。
篠崎は迷わず奈緒を残して行った。
篠崎は奈緒に大変な事が起きても、すぐに駆けつけて来られない、人様の家族だった。
『あなたはきっと深く傷付く。』
『あなたは何もわかってない。』
純の言葉が頭に浮かぶ。
「わかっていたわ…ちゃんとわかってた…」
奈緒は自転車を押しながら公園を出て、アパートへ向かって歩き出した。
坂道を上りながら、さっき見た篠崎のカッコ悪い後ろ姿を思い出した。
家族の元へ戻って行く男は、なりふり構わぬ姿だった。

