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幸せの欠片
第10章 旅立ち

 初めは、ただの原石だったのを、磨いて美しくしたのは自分だという自負があった。

 なのに、薄々感じてはいたが、とうとう妻の麻衣までが行ってしまうことになった。

 仕方がないと思う。

 女性というものは、男性から学んで成長し、男性を超えていく……、そういうものだと思う。

 アリアからは、彼女の住む国では、一夫多妻制が認められていると聞いている。そして、麻衣もアリアも自分を愛していると同時に、女性同士も愛し合っているのだと言った。

 こういう形に収まることは珍しいケースのような気がするが、このことは、とてもラッキーなことなのだと思う。自分を中心にできた幸せの形があるとしたら、やはり三人で一緒に暮らすのが幸せなのではないかと気が付き始めていた。

 悟の勤める会社は外資系で、本社は欧州にあったので、中東にも出張する機会は少なくない。その上、上司の中にもクラブの愛好者が何人かいる。それを考えると、伝手をたどって何とかなるかもしれない気がして来た。

 まだ、麻衣にもアリアにも話せないが、中東に駐在できるなら、また一緒に生活ができるようになる。

 そこまで考えた悟は、気分が明るくなった。

 サディスティックな嗜好を持っているからと言って薄情なわけではなく、悟は、愛情深い性格をしていた。



 空港でチェックインを済ませ、荷物をカウンターに預けると、セキュリティチェックに向かうゲートの前まで麻衣を見送った。

 麻衣は、アリアに逢いたいという一心で、ここまでさっさと準備を進めてたどり着いたが、悟の気持ちを置いてけぼりにしたような気がして、後ろめたさを感じてもいた。なので、悟が別れ際に一つだけ、と言って質問をしたのには驚いた。
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