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幸せの欠片
第2章 痴漢
電車の揺れに合っているので、偶然ともわざとともつかない微妙な当たり方をする。
気のせいかと思ったけれど、次には、はっきりと人のぬくもりを含んだ布地の感触がした。
電車の動きに関係なく、しっかりと熱さが感じられるのだ。
布越しに当たるそれは、時折、ピクピクとした。
あ・・・・・・、間違いない。
はっきり男性の熱いものだと気付いた時、自分の顔が赤くなるのがわかった。
心臓が波打つのも聞こえるような気がして、脈が耳や頭の後ろに響く感じがする。
― まさか、痴漢?!
でも、痴漢というのは、こちらが触られている場合で、この場合、手が動かせないとはいえ、客観的には麻衣が触っているようにも見えるのではないかと思った。
ここで声を上げて、相手に違うと否定されれば、何の証拠もなく、嘘を吐いていると言われても言い返せない。
第一、こんなにドキドキしていては声が震えて、大声を出せる自信もなかった。
焦った。
もう紙袋を諦めて、腕を引っ込めようと思った次の瞬間、紙袋を持った手を包み込むようにつかまれた。
ビックリして腕を引こうとするけれど、ひじの間接をひねったような姿勢では、上手く力が入らない。
「い、いやっ!」
遂に大声を出そうとしたけれど、相手の力の強さに恐怖を感じてか、やはり大きな声は出なかった。
追い詰められたように扉の横の角にいて、この声では誰も気付いてはくれないだろう。
その内、私の腕に力が入らないことを悟り、相手の手が大胆さを増したのか、その手は、私の手を握ったまま、ワンピースをつまみ、器用に少しずつたくし上げて行くのが感じられた。
恐怖と羞恥に冷や汗が出て来た。
バッグを持った左手を使って何とかしようとも思うが、姿勢に無理がある。
そこで、車内アナウンスが、次の停車駅に到着することを告げた。
あぁ、良かった!
こちら側の扉が当分開かないのは知っていたが、ここで人が減ってくれれば、男は人目につくのを気にするかもしれない。そうしたら、その隙に、デパートの袋を振り回し、男を突き飛ばして逃げよう。
麻衣は頭の中でシミュレーションしてみる。
何度も繰り返していると、本当に上手く行きそうな気がしてきた。