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無防備なきみに恋をする
第1章 誰にでもスキだらけ
そして冒頭へと繋がる。もう日は傾いて夕陽が車内の二人を赤く照らしていた。
「中に出してもいいのに」
「お嬢様…それはなりません」
「わかってるわ」
後始末を終え、元の冷静さを取り戻した冬華は肩を竦めてくすりと笑い、隣に座る佐伯の顔を覗いた。
視線を感じながらも、佐伯はそれを無視して黙って開いた窓から外に向かって煙草の白い煙を吐き出していた。
佐伯は性行為の後は決まって煙草を吸う。本人曰く、どうしても吸いたくなるのだという。
普段は世話役という立場上 冬華の健康面や世間体を気にして吸うことはないのだが、この時だけは欲に飲まれて吸ってしまう。
冬華もまた、行為の余韻に浸りながら煙草を燻らせる彼の姿を眺めるのは好きだったし 自分だけが知っている佐伯の姿なのだと思えば嬉しいものがあった。
そしてその煙草の火が消えるのが、二人は元のお嬢様と世話役に戻る合図となる。
「それにしても、珍しいわね。佐伯が嫉妬だなんて」
男の先輩と大学を出て道を歩いている所に現れた佐伯の形相を思い出して冬華は口元に手を当ててくすくすと笑う。
いつもならば "そんな訳あるか" と一蹴される場面だが。
「……。」
「あら、反論しないの」
「勝手ながら、少し」
振り返った佐伯に手首を掴まれ、冬華の体は彼の方へと引き寄せられる。まだ煙草の火は消えない… もう少しの間、二人は男と女のまま。
佐伯は公園に人気が無いのを良いことに、窓を開けたまま冬華の身体を膝の上に載せ、するすると彼女の髪に指を絡ませて梳くように頭を撫でる。
どちらとも無く顔が近付いて今にも唇が重なりそうになった時、冬華のポケットから鳴り出した電子音が二人の動きを止めた。
「ん、先輩からだわ」
「…お嬢様、こちらを向いて」
スマホの画面に表示された先ほどの先輩からの着信に目を向けた冬華の顎をくいと持ち上げ、佐伯はゆっくりと唇を奪った。
冬華の頭の中は目の前の男に染まる。鳴り響く着信の音が次第に遠のいていくのを感じた。
>> 2章へつづく。