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かごのとり ~ 家出娘の家庭事情 ~
第30章 翼を・・・ひろげて
俺は不動産屋の声も聞こえず
振り切るように部屋を飛び出した



脳の錯覚かなんかだと



気のせいだと・・・思っていた








どこかで感じた事がある



ずっと昔の事のような


それでも忘れない


懐かしい匂い・・・






そいつにしか創れない・・・匂い



そいつにしか生み出せない・・・空気



そいつからしかもらえない・・・幸福感






何かに・・・呼ばれたように



甘い・・・蜜の匂いに誘われるように





重力に引かれるように

俺は・・・その匂いの方に走った






バンっ…




ザァァ・・・・・・フワ…



ドアを蹴り倒すような勢いで部屋を出て
駆け出した俺を一瞬だけ制止するように



フワリと舞い上がる風と…桜の花びら




そして…それに混じって

フワリと舞う・・・やさしい匂い







厳しく・・・長い

寒い冬が終わって

優しく・・・やわらかな季節が運ぶ

暖かい匂い



俺が立ったのは

満開を迎え…咲き誇る桜の木が

風に揺られる並木道





散りながらも舞い上がる

薄紅色の・・・無数の花びら








春の雪・・・とでも言うような

桜吹雪に包まれるように

並木道の中に立つのは・・・








天使のような





白い・・・







・・・・・・・・鳥?










『・・・』










桜の花びらに包まれ

宙を舞う・・・羽ばたく鳥のように見えるのは

そよ風に揺れる

白いワンピース・・・






そこからのぞく…色白の手脚


そして


俺をとらえて揺れたのは










薄茶色の・・・・・・大きな瞳















〃『うそ・・・?・・・』〃









その人の唇が…かすかにそう動いていた






そして









トン・・・トン・・・トコ……トコ…








その二本の脚は


一歩・・・また一歩と


ゆっくり・・・それでも確実に


こちらを向いて歩みだす






『っ・・・』







向かい合う俺の足は

意思の有無も構わないように

ひとりでに走り出していた


















『・・・・・・マリア・・・っ!!!!』
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