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行こうぜ、相棒
第5章 Maneater



「恋すると、変なワンピ、買う?」

エリが尋ねる。自分の片割れに。
高校生まで同じ部屋で寝起きし、同じ服を着て同じ下着をつけていた妹に。

「わかんない…でもエ子、そういうベタなとこあるからね」
「なによそれ」

からからと、ふたりは笑った。
オープンテラスのレストランの片隅に、涼しい風がふいた。
エリはトールグラスに注がれたペリエを飲んだ。

「ところでこないだ、また見ちゃった」
そう言って、エリは唇の端を笑みの形に曲げてみせた。

「私のビデオ? やめてよねー」笑いながら答えるリエ。

「で? どうだったの? ドキドキした?」
「リ子こそ、すごい感じてた風に見えたけど?」
「それは業務ですから」
「業務ね」

と言ってふたりは呼吸で笑い合う。
エリは左手のアレキサンドライトの指輪に触れる。陽光の下では深いグリーンに、電灯の下では濃い赤に色を変える不思議な石。彼女のトレードマークだ。リエは普段、いかなる時もこの指輪を外すことがない。
アダルトビデオの女優をしている彼女は、仕事の時にだけこの指輪を外す。その時にする行為を「業務セックス」と呼ぶ。

業務セックスは、身体の生理的な反応も使ってする、全身芝居なのだとリエは言う。目つきを変え、愛液を流し、タイミング良く潮を吹く。男優と呼吸を合わせて痙攣し、エクスタシーを表現する。

「業務じゃないセックスはしてるの?」
「道永さんと?」
エリの問いに、リエは同棲中の恋人の名を告げた。
「他に相手が?」
「いないわよ。そんなにたくさんの人としていられないよ」リエは快活に笑った。
「道永さん、そろそろ結婚とか言い出すんじゃないの?」
「エ子が片付かないのに、妹の私が先に行けないわ」
「そんなこと、思ってもないくせに」エリもさわやかに笑った。
「お姉ちゃんこそ、どうなのよ?」
「業務じゃないセックスのこと?」
「愛ある奴のことよ」リエも苦笑を返した。
エリは少し考えてから、答えた。
「愛があるかどうかは分からない。でも昨夜の年下の大学院生は素敵だったわ」



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