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花菱落つ
第3章 信玄
 侍の世界における「衆道」とは、厳しい主従関係を背景に、主が見目麗しい配下を弄ぶことをいう。主従関係が背後にあるため下の者は否と言うことは許されず、ただひたすら身体を嬲られるのみ。手慣れた者が行えば常ならぬ快感をもたらすものではあるが、慣れぬ者による行為では苦痛のみがもたらされる。色で鳴らした信玄は、もちろん衆道においても手練れであった。

「そなた、実際に男とまぐわうのは初めてであろう。なに、怖がらずともよい。優しくしてしんぜようほどに」

 実際、信玄の手つきは武骨な手による技には思えぬほど、優しく滑らかだった。

「わしも男。どこを擦れば男のそなたが気持ちよくなるか、我が身で知り尽くしておるでのう」

 だが手練れのはずの信玄は、決して凪の菊座(肛門)を責めようとはしなかった。菊座を責め、へのこを挿し込むことは男同士のまぐわいにおいての常道であると、凪は学んでいた。
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