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花菱落つ
第3章 信玄
「わしが菊座を責めぬことが意外か。たまに馬にすら乗れなくなるほど尻を痛めつける阿呆もおるが、わしも武将の端くれ。配下が馬に乗れず戦に出られないのは非常に困る。それゆえ皆が噂するほど激しく責めたりはせぬ。特に菊座には慎重にならねば、配下もわしも良い笑い者になってしまうでのう」

 その間も信玄の手は休むことなく凪の身体を責め、凪の若いへのこは十分に雄々しい張りを見せていた。

「そなたは巫女の出で立ちゆえ、源助に妬かれたりせず実に便利じゃ。以前別の男をこうして閨に呼んだところ、源助に見つかって弁解の書状を書く羽目になってのう」

 信玄は呵々と笑った。衆道は下の者にとって、ただ慰み者にされるだけでの物ではない。上の者に気に入られるまたとない機会でもある。信玄もこれはと思う者を閨に誘い、信の置ける者かどうか探るのだ。信玄の腹心である源助こと高坂昌信は閨で信玄の相手をしたことをきっかけに成り上がった者だった。「逃げ弾正」の異名を持つ昌信は頭が切れ腕も立つのだが、少々焼き餅焼きなのが玉に瑕だった。
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