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花菱落つ
第4章 義信
「だがそなたが男であればその心配は無用。そなたの見た目では、そなた言い寄る男もさぞかし多かろう」
「…………」

 凪が顔を赤くし黙り込んだのを見て、正室は打ち掛けの袖を口元に当ててころころと笑った。

「そなたも罪作りな男よの。義信様もそなたが男と知れば、さぞかし仰天なされるであろうな」

 正室は笑いを収め、真摯な眼差しを凪に当てた。

「最近義信様は心に懸かることがおありのご様子。閨で睦んでいても、一人を遠くを見つめて心ここにあらずということも多い。私は嫡男の正室という身分ゆえ、そなたのように気軽には出歩けぬ。義信様のことで何かあれば、私に教えてはくれまいか」
「もちろんにございます」
「頼む」

 凪は正室の元を辞し八幡宮へ戻った。正室が気にかけていた義信の心懸かりが大事件に発展するとは、このときは夢にも思っていなかった。
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