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花菱落つ
第6章 因果応報
「『因果は巡る』か。もう社へ戻っても良いぞ」

 中曲輪に戻ってきた信玄の顔には、深い苦悩の色が滲んで見えた。どっかりと座り込んだ信玄の顔を、凪は切れ長の瞳でじっと見つめた。

「……わしは昔父を出先の駿河から戻れぬように策を弄し、武田家当主の座についた。そして今その恩義ある駿河へ兵を差し向けようと画策すれば、息子がわしを殺そうと謀る。因果応報とはまさにこういうことじゃな」

 凪は自嘲気味に呟く信玄の手を取り、そっと押し抱いた。四十を少し過ぎたばかりの信玄が、凪の目にはまるで齢を重ねた老人のように思えた。

「……どうか私を抱いてください」
「わしを慰めるというのか」
「我ら『ののう』は千代女様、引いてはお館様にお仕えする者にございますれば」

 だが信玄は凪の手をほどき、幼子にするように頭を撫でた。

「そなたのその心だけ受け取っておこうかの」
「お館様……」

 頭に置かれた手が離れたときには、信玄はいつもの威厳を取り戻していた。
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