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花菱落つ
第7章 廃嫡
 翌朝、凪は信玄に目通りを願い出た。不審に思われぬよう一旦社に戻り、いつもの巫女装束に着替えている。そして義信に凪が本当は男であり、千代女の「ののう」であると知られてしまったことを報告した。
 だが、強引に押し倒され犯されたことは黙っていた。

「そうか。まあ致し方あるまい」
「……お咎めにはならないのですか?」
「知られたら知られたで構わぬ。そなたにはまた別の使い道もあるゆえ」

 信玄は気にする様子もなく、まるで世間話をするような調子で凪に別の役目を言い渡した。

「これからしばらくの間、わしとあれの繋ぎを務めてもらいたいのじゃ。正式な使者を立てるまでもない事柄も多いゆえの。近う」

 信玄と義信は親子だ。しかし信玄は武田家当主でもある。信玄が動けば山が動く。内々に伝えたいことがあれば、誰かにこっそり頼むしかない。要は凪にその役目をせよということだった。

「かしこまりました」

 信玄からの言付けを聞き、凪は姿勢を正した。信玄の言葉を過不足なく正しく義信に伝えなければならない。

 それは義信の命運を左右する、重要なものだった。
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