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花菱落つ
第9章 生生流転
 低く、唸るように風が鳴った。

 東光寺の広大な境内に建つ小さな建物が微かな明かりに黒い影を浮かび上がらせている。十月ともなると風は冷たく、凪は思わず細い身体を震わせた。ふと凪は目の端を何かが横切った気がして夜空を見上げた。だが三日月の照らす空は昏く、星々が頼りなげに光を放っている。

 漆黒の空を再びを小さな光が横切った。流れ星だった。

「どうかしたのか」

 義信が訝しんで同じように空を見上げた。

「流れ星です」

 凪の指の先、儚い尾を引いて三度星が流れた。義信は凪の指先を目で辿る。二人の見上げる前で、いく筋も小さな光が流れる。いつまでも飽くことなく空を見上げる凪に、義信は声をかけた。

「あまり長いこと空を見上げていては風邪を引いてしまうぞ」
「申し訳ございません」

 凪は我に返り、恥じ入った。一体自分は何をしに来たのか。流れ星に見とれている場合ではない。

 うつむいた凪の頭上を、また一つ星が流れた。
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