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第36章 未来へ

五十嵐は

『パソコンでフォーマットすれば中に蓄積されたメモリーが全て消去されるって事だからな。』

とそれがどうしたという感じで答えて来た。だから俺は

『なら、人の脳をフォーマットするって事は？』

と聞き直していた。五十嵐は露骨に嫌な顔をして

『そりゃ、全ての経験、つまり記憶って奴が全て消えちまうんだから…。』

と口ごもってしまっていた。

全てが消えて、記憶喪失になるに決まっている…

五十嵐が言えなかった言葉を俺は考えていた。リナの記憶喪失はやはりこの実験と関係があるのだと俺は理解する事が出来た。

市ノ瀬の日記では

「被検体001を水槽から出す試みが行われた。だが、無理な成長促進に被検体の細胞が一気に劣化し死亡した。脳の活動もほとんど見られなかった事から、クローンに活動本能を遺伝される実験第１号は失敗に終わったのだ。」

と記されていた。つまり、動物のように生まれてすぐに立ち上がるなどの活動を本能として人クローンに遺伝で組み込む事に第一段階では失敗したのだった。

そうやって１年をかけて色々と実験をしては失敗を繰り返し、最後の被検体006の実験になっていた。

市ノ瀬は自分の娘そっくりなクローンの実験失敗を何度も繰り返し、なんとも思わなかったのか！？

と俺は違う意味でこの市ノ瀬という科学者を恐ろしいと感じ、半分狂ってるようにしか思えなかった。

「被検体006を水槽から出した。いつもの被検体と同じで006は寝かされたトレーから動く事はなく、目を開ける事もなかった。だが、細胞劣化はほとんど見られず、１時間経過後、006が目を開けたのだった。」

「誰もがこの実験の成功を確信したはずだった。だが、６時間後にはやはり006の細胞劣化が始まり、脳の活動が停止した。」

「新たな生命を作り出すという事はやはり元になる魂が必要なのか？いや、大丈夫だ。理菜には理菜の魂がまだ残っている。被検体のような結果になるはずがない。」

という内容に俺は

ちょっと待て…

となっていた。記録ではこの実験開始の２年前に市ノ瀬 理菜は死亡しているからだった。