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鬼ヶ瀬塚村
第19章 あの日
『最初に言っておくわ』

真理子さんはチャンネルをいじりながら言った。
テレビ画面を見つめながら。
僕は枯れていく植物のようにシオシオと正座した。

『…別にもう怒ってないわよ』

『え…?』

真理子さんは深夜のテレフォンショッピング番組を見ながら言う。

『けど、それってねノブの事なんとも思ってないって事』

『…そうなんだ』

『愛情の反対なんだか知ってる?』

『…憎しみ?』

『違うわ』

『じゃあ、何?』

『何もないのよ。無関心よ。考える事もないのよ』

『………』

テレビ画面では厚化粧のおばさんが大袈裟に"やだッ!見てください、ほらぁ~ッ!シミが消えましたぁ~ッ!"と喚いている。

この重すぎる空気の中、おばさんだけがわずかな救いだった。

『結局ね赤ちゃんはおろしたよ、もう…いないよ』

『…そうなんだ』

『そうだよ。1人じゃ無理だもん』

『真理子さんの経済力なら…大丈夫でしょ?』

『君は…馬鹿だなぁ…お金はあっても父親がいなきゃ可哀想でしょ?』

真理子さんは一度も僕を見る事なく淡々と言う。
もう彼女は僕の事なんてどうでもいいのだ。
間に分厚い透明の壁を感じた。
二重にも三重にも。

彼女は僕を認識していない。
憎しみをぶつける価値すらないと思っているんだ。
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