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鬼ヶ瀬塚村
第28章 横山総合診療所
僕は呆気にとられてしまった。
こんな筋肉質で背丈も軽く185cmを越えている強面の大男が病院が苦手だなんて…。
ましてや彼は28歳だ。
注射などが怖いのだろうか?

『え…』

『細けぇごたぁ良いんだっぺよッ!黙っでづいで来でぐれ…頼むッ!!』

達弘さんはギュッと僕の両手を握り、頭を下げてくる。
これには流石に断る理由もないので僕は頷いて承諾した。

『わかりました』

『ありがてぇッ!ごっちに俺の軽トラあるがらよ、乗れッ!』

『結構距離あるんですか?』

『車で10分程だ、ちけぇっぺよ。帰りに久田のババァどこ寄っで先月貸じでだクワ返じで貰うんだ』

達弘さんは急にご機嫌になり、ズンズンと歩いていく。

しばらく歩き、庭から外れた牛舎の前に達弘さんの軽トラが止めてあった。

黒い牛が興味深そうにこちらを見ている。

『かわえぇべこじゃば?手前のば花子、奥ば太郎っでんだ』

達弘さんはニヤニヤしながら運転席に身を滑り込ませた。
よそ者が彼らに珍しいように、僕も牛達を興味深く眺めてから助手席に座った。

『出すっぺ。軽く揺れるが辛抱しろ』

ガタガタガッと荒い地面の表面を削るようにして僕と達弘さんを乗せた軽トラは動き出した。
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