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鬼ヶ瀬塚村
第31章 一人だけ居無くなる
診療所の前には10人程の村人達がウロウロしていた。

女は両手で顔を覆っていて、男はしゃがみこんで頭を深く下げていた。

真理子さんは手前に軽トラを半ば強引に停止させ、シートベルトを素早く外して軽トラから飛び出した。

『村長…』

女が真理子さんに近付いた。

『一郎が…』

女は涙を流しながら言う。
真理子さんは彼女をそっと抱き締めた。

『大丈夫、大丈夫よ』

僕はそれを見ながら荷台から降り、助手席の吾郎さんに近付いた。

彼は歪んだ顔でただ前方を見開いた目で見ているだけだった。

『吾郎さんッ!』

『………』

『吾郎さんッ!』

『あ…ああ…ずまねぇ…』

吾郎さんはようやく正気を取り戻したようで、シートベルトをノロノロと外すと軽トラから降りた。

『おじぃちゃん、ノブ、行くわよ』

真理子さんを先頭に僕達3人は横山総合診療所へと入って行った。

中にも涙ぐむ村人が数人いた。
みんな一様に顔を手でおおって嗚咽を漏らしている。

『真理子ッ!』

京子さんが僕らに駆け寄って来た。
寝巻き姿にカーディガンを肩に羽織い、髪は下ろした状態だ。

『今朝、まだ暗いうぢに運ばれだ…』

京子さんは眉間にシワを寄せて言う。

『死因はもうわかったの?』

真理子さんが問う。
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