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鬼ヶ瀬塚村
第31章 一人だけ居無くなる
『いっちゃんが…自殺…』

真理子さんは小さく呟くと慌てて京子さんを押し退けて突き当たりの診察室の扉を開けた。

『真理子さんッ!』

僕も彼女の後を追い、消毒液が鼻につく診察室へ飛び込んだ。

そこには…大きな診察台に横たわる一郎さんの亡骸があった。

半目で天井を見上げ、乾いた唇はわずかな微笑みを浮かべていた。

切り裂かれた黒いポロシャツは腹部部分に大きな穴が開いており、中は小豆色に染まっていた。

涙と吐き気が込み上げてきた。

『真理子…来てくれたんだね』

額にアーカイブスをつけたヒゲの男が僕と真理子さんを見つめていた。

隣には外国人俳優のような壮年の男と、僕より少し年上そうな男2人と若い男1人が立っていた。

5人は皆白い白衣姿だった。

『おじ様…一体何があったの?』

真理子さんがヒゲの男性に言う。

彼は首を横に振った。

『わからない…遺書らしき物も見つから無かったんだ…』

『そんな…』

『何か心当たりはあるかな?落ち込んでいたり、食欲がなかったり…』

『普段から元気だったわよ、昨日も仕事していたし…』

『そうか…ん?君は…』

ヒゲの男性が僕を見つめた。
まるでハリウッド俳優のヒーローの様なその目がゆっくりと笑みを浮かべた。
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