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鬼ヶ瀬塚村
第5章 宗二
『おうッ!ノブよ!』

しばらく畦道沿いを歩いていると吾朗さんが初めて僕に振り返った。

黒く焼け艶々した顔は太陽のように見事な笑みを浮かべている。
その中で、黄ばんだトウモロコシのような歯が剥き出しになっていて、口角なんかは鋭利な角度で上を向いていた。

『どうしたんですか?』

僕が問うと、吾朗さんはスッと指先を遠くへ向けた。

『見えるば?』

『はいッ?』

『見えるばが聞いとんじゃ』

吾朗さんの指先は上下左右に小刻みにブルブル震えていたが、ある一つの坂を指指していた。

『どうかしたんです?』

『ありゃなぁノブ…ちご坂っで言うわじら村唯一の坂なんだ』

改めて見ると緩やかではあるが長い坂道が見えた。
竹林から蛇が這い出すような形でうねり、僕が今立つアスファルトへ続いていた。

『この村には坂道が少ないんですか?』

『ぞうともよッ!平っぺぇ痩せた土地でな、わじらのひいひいひい……あ?…ひい…まぁ、昔のじぃさんらは苦労したらじいっぺ』

『今は随分豊かですね、とても綺麗だと思いますよ』

吾朗さんは指先を宙に浮かせたまま俄然坂道を見つめている。
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