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鬼ヶ瀬塚村
第8章 弘子
穏やかで優しく聡明そうな顔立ちの人だった。
切れ長で美しい目は真理子さんや優子のそれと形は別だったけれど、眼鏡の奥で小さく輝いている。
その目が優しく、真理子さん、僕、真理子さんと見つめ静かに糸のように狭くなっていった。
柔らかな笑みだった。
『まだこうして身体を起こせる内にはやれる事はやっておきたいの』
弘子さんはそう言うとまた筆を走らせ始めた。
『信人さんね、お話は伺っているわ』
弘子さんは目線は筆先のまま言った。
『あ…はい…あの…体調は大丈夫なんでしょうか?こんな夜分に申し訳ないです』
『ふふふ…ありがとう。お陰様で体調は大丈夫よ…夜分に?私が夜に来るよう言ったのに、面白い方ね』
僕は顔が紅潮していくのがわかった。
熱を発し、鼻先が汗で濡れていく感覚がする。
『あらあら可愛らしい人だこと』
弘子さんは一度僕を見て、そして再び筆先を見つめる。
『お母さんまだ?私も足痺れそうなんだけど』
『少し待って………』
弘子さんは右袖の脇部分を左手で押さえながら、奇妙な形をした判子を和紙に二ヶ所落とした。
ギュッと押さえられ、離されると何かの紋様が押されたらしい。
それがどんな紋様かはわからなかった。
『はい…これで終わったわ』
切れ長で美しい目は真理子さんや優子のそれと形は別だったけれど、眼鏡の奥で小さく輝いている。
その目が優しく、真理子さん、僕、真理子さんと見つめ静かに糸のように狭くなっていった。
柔らかな笑みだった。
『まだこうして身体を起こせる内にはやれる事はやっておきたいの』
弘子さんはそう言うとまた筆を走らせ始めた。
『信人さんね、お話は伺っているわ』
弘子さんは目線は筆先のまま言った。
『あ…はい…あの…体調は大丈夫なんでしょうか?こんな夜分に申し訳ないです』
『ふふふ…ありがとう。お陰様で体調は大丈夫よ…夜分に?私が夜に来るよう言ったのに、面白い方ね』
僕は顔が紅潮していくのがわかった。
熱を発し、鼻先が汗で濡れていく感覚がする。
『あらあら可愛らしい人だこと』
弘子さんは一度僕を見て、そして再び筆先を見つめる。
『お母さんまだ?私も足痺れそうなんだけど』
『少し待って………』
弘子さんは右袖の脇部分を左手で押さえながら、奇妙な形をした判子を和紙に二ヶ所落とした。
ギュッと押さえられ、離されると何かの紋様が押されたらしい。
それがどんな紋様かはわからなかった。
『はい…これで終わったわ』