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鬼ヶ瀬塚村
第9章 違和感
泥だらけになって玄関前でウロウロしていると吾郎さんが股関にあるファスナーを上げながらスイッと背後からやって来た。

『何やっでんだ?もう寝る時間だっぺ?泥だらけでねぇか?』

『はは…すみません、ちょっと探し物をしてました。今戻ってきたんです』

『探しもん?厠か?厠ならほれッそこだ!あど玄関入って右曲がった突き当だりにもあるっぺ…んだが、やっぱだんこは外で盛大に出すのが気持ちいいっぺ?』

吾郎さんは"ガッハッハッハッ"と笑った。
やはり酒臭い。

『いえ…トイレではなくて…あの、タオルか何かお借りできませんか?』

数分後…僕の足の裏は得たいの知れない匂いを漂わせていた。
草の青臭さと吾郎さんの汗らしき匂い………吾郎さんからお借りしたこの黄ばんだ手拭いは明日洗濯して返そう。

そう思いながら客室でくつろいでいると、キュッキュッキュッキュッキュッと軽やかな足音が聞こえてきた。
やがてそれは近付き、客室の前で止まった。

『もう…やだッ』

ふすまの向こうから真理子さんの声がした。

そして、静かにふすまが開いていく。

真理子さんが眉根をギュッと真ん中に寄せて呟きながら僕の側にへたりこんだ。
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