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鬼ヶ瀬塚村
第9章 違和感
僕の隣で座ったまま畳を見下ろす真理子さん。
全く微動だにせずただただ畳の目を見ている。
濡れた昆布のような黒髪のつむじが僕に向けられていた。

『ねぇ真理子さん?僕、東京に1人で戻った方がいいかな?』

少ししてから返事があった。

『駄目…』

『だって、僕だってなんだか気分が悪いよ?まるで僕に知られたくないように村の言葉で真理子さんは話すでしょ?』

『駄目だって…』

『じゃあ、教えてよ。ねぇ、一体真理子さんは何にそんなに怯えてるのさ?だいたいどどだとかしんだとか…どうして意味を教えてくれないの?』

『駄目よ…』

『わからなければすぐに聞けって言ったのは真理子さんじゃないの』

『…駄目って言ってるでしょッ!?』

真理子さんが顔を勢いよく上げた。
悲しみとも怒りとも言える複雑な表情は冷や汗らしき物で濡れていた。

『…ノブ、お願い…お願いだから…私に考える時間をちょうだい』

"私に考える時間をちょうだい"ギクッとした"あの日"の真理子さんが、ああそうだ思い出した…8年前のちょうど今頃…彼女は僕に確かに言った

"考える時間が欲しい"

と。

フラッシュバックが僕を襲う。
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