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ヒロイン三国ファンタジー
第17章 17 新しい時代
 曹植は寂しげな甄氏の横顔にかつて幼い日に見た母の嘆く姿を思い出した。

――まだ歳は3つくらいであった。
利発な曹植は女官たちを撒き、こっそりと母、曹操の寝所に潜り込む。
 その頃は男装をしている曹操と付け髭を取り、髪をほどいた母の姿である彼女の区別がついていなかったので、母親は寝所にだけいると思っていた。
寝台の下で母を驚かせようともぐっているうちに眠りこけてしまう。
気づくともう曹操は寝台の上に伏して泣いていた。

「う、ううっ、奉孝、奉孝、うっっうっ」

 彼女に使える軍師の一人であった郭嘉奉孝が38歳という若さで死んだのだ。
荀彧が推挙した郭嘉は曹操が最も重用していた軍師であり、曹植の父であった。短い期間であったが公私ともに濃密に過ごした者だ。

 幾時も泣き続け、夕暮れが訪れた。曹植は嘆く母を慮り、じっと寝台で心を寄り添わせる。
やっと静かになった母の横顔が鏡に映るのが見えた。その表情はもうこの世には何もないというような、まさしく虚無感以外の何物でもなかった。
 あのような曹操の表情を見るのはあれが最初で最後であった。また曹植はその姿に深い感銘と美しさを幼いその心に刻み込んでいた。
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