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ヒロイン三国ファンタジー
第17章 17 新しい時代
「いやです。いやです。あなたに会えないなんて」
「どうか、他の方々にもその素晴らしい詩を聞かせてあげてください」

「いやです。あなた以外に誰に捧げろというのですか」
「あなたが愛する人に」

「――。あなたは兄を愛しているのですか? それとも袁煕殿? なぜいつもそのような頑ななお顔をなさるのです」
「……」

「せめてそれを知るまで帰りません!」

 困り顔で甄氏はため息をついた。曹植もこれだと決めたら動かない頑固さや意志遂行の強さは父親譲りである。
仕方なしに甄氏自身も遠い過去になっていた思い出を話すことにした。

「袁煕さまの元へ参る前にわたくしには仲の良い使用人の息子がおりました。幼い時からの顔見知りでしたので親しくはありましたが決して淫らな関係ではございませんでした」

――袁煕の元へ嫁ぐことが決まると、その使用人の息子は甄氏のために美しい翡翠の玉がついたかんざしを手に入れ甄氏に渡した。しかしそれを快く思わない父親の甄逸がそのかんざしは使用人の息子が持てるようなものではない、盗んだのであろうと投獄させ処刑させる。

 嫁入り前の娘に悪評をつけたくないがためであったが、この事件が甄氏の心に深く傷を残した。使用人の息子は、身分故、愛の言葉を口には出さなかったであろうが、幼き頃からコツコツと銭をため、甄氏のためにそのかんざしを手に入れた。
勿論、自身の行く末を知っている甄氏も彼の贈り物を受け取ることが彼への気持ちに応える精一杯の行為である。
恐らく彼が生きていても不義を犯すようなことはなかった。
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