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あなたの胸の中で眠る花
第4章 再会
命の恩人がわかったのは良かったけど、同時に嫌な記憶も蘇る。痴漢に遭ったことは誰にも言っていない。
別に大したことない。ちょっと触られただけ。そう自分に言い聞かせていた。
「その後は…体調は大丈夫?」
「はい、大丈夫です。大したことなかったんで」
「なら良かった」
「あの、倒れたこと、真ちゃんに言ってないんです。言うと大袈裟に心配しちゃう人だから…」
「なんか分かる気がするよ。分かった、堤くんには言わない」
「ありがとうございます」
「でも、十代のうちは繊細だから…自分では大したことないと思っても、知らないうちにストレスを感じていることが多い。色々溜め込まず、信頼できる人が近くにいるなら甘えたほうがいい」
驚いた。心の中を見透かされたのかと思った。
信頼できる人はいる。でも悩みとか、自分の気持ちを素直に話すことはあまりない。だって、パパの所に行きたいって言ったら、皆困るでしょ。
「なーんて、初対面のオヤジに言われても迷惑だよね。はははっ」
「いえ…ありがとうございます」
空気をそのまま重くせず、すぐに柔らかな雰囲気にしてくれたので緊張が解れた。
初春の冷たい夜風が吹く。
「あれー?いつの間に仲良くなってんのー?」
トイレにでも起きたのか、寝惚け眼の真ちゃんがベランダに出てきた。私の隣に立ち、寒そうに少し震えている。
「何々、何の話?」
「んー….秘密」
「は!?なんだよ、それ!」
「寒いから中入ろー」
「あ、おい!」
「俺もそろそろ作業に戻るかな。じゃあ、おやすみ」
「一条さんまで!なんだよー…」
真ちゃんは拗ねた顔で部屋に入る。
「真ちゃんお風呂入る?」
「えー…めんどいから明日入る」
「じゃあ私入ってきちゃうね」
着替えの用意を持って風呂場に向かう。真ちゃんの面倒くさがりも相変わらずだ。
全ての衣服を脱ぎ、冷たいタイルの上を歩く。
熱いシャワーを出すと、冷え切った体は徐々に体温をあげていった。