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あなたの胸の中で眠る花
第6章 縮まる距離
アパートに着くと、真っ先に一条さんの部屋へ向かった。
一条さんはベッドでぐっすり眠っている。私があげた氷水はすでに溶けていて、水滴がシーツを濡らしていた。お茶は減っていなかった。
遠慮気味にそっと額に触れると、まだ熱がある。
買ってきた冷えピタを取り出し、一条さんの額に貼った。
ベッド横の棚にポカリとタオルを置く。
私は自分の部屋に戻り、お粥を作った。市販の薬買ってきたけど、何か食べないとダメだもんね。食べてくれるか分からないけど。
お粥の入った茶碗を持って、再び一条さんの部屋へ戻る。
ベッド横に座り、一条さんが起きるのを待つ。
長いまつ毛に、綺麗な鼻筋、髭はちょっと濃いけど、端正な顔立ち。若い頃も男前だったのだろうと感じさせる。
まだ起きる気配はなさそう。無理に起こすのもなんだか悪い気がする。ベッドの脇に肘をついて、一条さんの様子を伺う。
昔もこんなことがあったっけ。
保育園で遠足があった日、パパが熱を出して結局行けなかったのだ。遠足は楽しみにしていたけど、パパの具合が何より心配だった。
風邪がうつるからと、部屋に入れてくれなかったパパ。私はそれが嫌で泣きながら看病していたな。
あの頃は無知だったから、看病もめちゃくちゃで。
絞りきれていないタオルをパパのおでこに置いたり。
お薬を飲ませようしたのに、コップの水を落としたり。
それでもパパは笑って許してくれた。
懐かしいなぁ。
なんだか、一条さん、パパみたい。パパより年上だけどね。
頬杖をつきながら、一条さんを見ていたら、急激に眠気が襲ってきた。私はその場で眠りについてしまった。