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あなたの胸の中で眠る花
第1章 過去
父は会社を出た後、隣町で美味しいと評判の洋菓子店で私の誕生日ケーキを買った。その近くの交差点で道路に飛び出していた男の子を助けようとして事故に遭ったらしい。トラックとぶつかり、即死だったと。父の手にはケーキの袋の一部が硬く握られていた。
日を重ねるごとに実感する喪失感。
父がいなければ、私は一人ぼっちだ。
祖父母には会ったこともないし、親戚のことも分からない。父と二人で静かに暮らしていたから。母親の存在は知らない。父は亡くなったと言っていたけど、家に写真が一枚もないのは少し不思議に思っていた。
身内は私しかいなかったため、可哀想に思った保育園の先生が協力してくれて火葬だけ行った。父の保険と助けた男の子の家族からの賠償金、私の為に父がコツコツ貯めていた貯金、信じられないくらいのお金が私の元に入ってきた。私はそのお金で父のお墓を作った。パパのお金はパパのために使いたい。
行くあてのない私は当然施設に引き取られることになった。知らない人たち、知らない部屋、知らない空気。慣れない環境に私は一気に心を閉じてしまった。誰とも話さず、部屋に引きこもる日々。
お金なんかいらない。
ケーキなんかいらなかった。
…男の子なんて助けなければよかったのに。
私の醜い感情が溢れ出す。
パパに会いたい。今すぐ会いたい。
どうして私を置いていったの?
叶わない願いを胸の奥に秘めたまま、私はずっと夜空を眺めていた。