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人魚島
第5章 夏祭り
何か炒めて焼いているのか香ばしい匂いがプレハブハウス内に充満していた。
とりあえず起き上がり衣類を身に付けながら僕はゆっくりミケさんの背後に近付いた。

『わぁ、ビックリしたけん、声位掛けんさいね?どうや?もう昼時やけんアカメダイの姿煮と種牛の野菜炒め作ってみたけん、食べなよ?』

『アカメダイ?高級魚じゃ無いですか?』

『あん?まぁそうやけん、網に自分から引っ掛かる体たらくだよ、ほら、テーブルに置くけん』

アカメダイの姿煮に種牛の野菜炒め、味噌汁に白米、本当に美味そうだ。

『じゃあ頂きます』

僕は手を合わせながら咲子の存在を忘れまず野菜炒めをつついた。
種牛の割には肉がジューシーで柔らかい。

『懐かしいなぁ』

白米に納豆を掛けながらミケさんが呟いた。

『あたしね、7歳下に中学生の弟がおるけん』

『弟さん?』

『うん、今呉市で独り暮らしさせとるけん、食卓囲って合掌しとったんを思い出せたわ』

『独り暮らしって?』

『交通事故で両親は10年前に離婚しとる、飲酒、いや、泥酔運転したんよ、父ちゃんが、で、当時幼稚園の女の子跳ね殺して刑務所行き、一昨年ようやく出て来たんよ、離婚してすぐさま泥沼不倫の末に母ちゃんは妊娠、なんも言わんでマンション引き払ってボストンバック片手に出て行きやがった』

『生活はどうしたんですか?』

僕は箸を止めながら訊ねた。

『すぐさま施設に預けられたけんな、高校迄律儀に面倒見てくれた県の保護施設や、そこで6年間高校卒業迄弟とひもじく暮らしてな、すぐに武蔵野美術大学入って日本画勉強してから、すぐに人魚島の噂聞いて渡島してん、弟を腹一杯食わしたかったけんな、弟は今春樹アンタとタメや、やからかな、ふと不意に弟思い出してん』

自嘲しながらブラックデビルを咥え煙を出し、ウイスキーが入ったグラスの丸い氷を人差し指で掻き混ぜ、チュパッと人差し指を舐めるミケさん。

『ああ、会いたいなぁ、うちはそんな蓮みたく月に何百万って稼げんけん、ちょっとした趣味にデッサンしたりバイク改造して弄ったりするのが気晴らしや』

言いながらウイスキーを呷るミケさんが『冷えてるけん、オリジナルカクテル、店で覚えた味や』とオレンジの輪切りを浮かべたカクテルをテーブルに置いた。

『アンタは健全そうな家庭の金持ち鼻垂れボンボンみたいや、親父は何しとん?』
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