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人魚島
第5章 夏祭り
『咲子の奴何処行ったのかな?』

禅さんが小首を傾げるがもはや僕には興味の対象では無い。
咲子なんか野犬に食われちまえ、いや、酔っ払いにレイプされちまえ、酷い妄想をした。

『多分あそこだよ』

花子が呟く。

『何処だよ?』

禅さんが脚を組みながらミネラルウォーターを呷った。

『龍神様の神社だよ』

『ああ、あの無縁神社かよ』

『うん、お姉ちゃんは学校でゲンコツ貰ったり母ちゃんから叱られたら子供の頃から必ず龍神様の神社で独り泣いてたから…ハルくん、行ってあげてくれ無いかなぁ?』

『え?なんで僕なの?』

慌てて頭を左右に振るう僕の両手を優しく握りながら花子は続けた。

『ハルくんしかこんな大役勤まらんけん』

『で、でも…』

僕は花子と浴衣デートしたくてしたくて堪らなかった。
そんな花子からすれば下ら無い欲求の方が至って強かった。

『行ってあげてよ?ほらぁ、場所は早坂先生のクリニックの断崖下の祠だよ?近くだからすぐ解るよ?』

花子が無理矢理僕の背中を押した。
僕は仕方無く人混みを掻き分け走り出した。
まばらな人混みになり、魚鳴き海岸から離れ提灯と光と薄暗い街頭を頼りに坂道を駆け上がり早坂先生のクリニックを目指した。
潮風に提灯が揺れていた。
すかさず早坂先生のクリニックは見えて来た。
祭に参加しているのか明かりは無く、仮眠部屋の離れも薄暗い。

『咲子、何処だッ?』

僕は丘を下り海岸沿いを歩いた。
しばらく歩く事1分、何やら禍々しい雰囲気の場所に辿り着いた。
金木犀と紫陽花が咲き誇り甘い香りがする中、石畳の階段で独り咲子は背中を丸め泣きじゃくりながら線香花火をぶら下げていた。
小さな龍神様を模した社の近く、咲子の涙声だけが潮騒に乗って静寂の中に木霊していた。
4~5本終わった線香花火が咲子の足元に転がっていた。

『咲子、こんな人気の無い場所で何してるの?』

『………』

『咲子?』

僕は咲子に近付きしゃがみこんだ。

『隣座ったら?』

泣き腫らした顔で咲子が僕を見上げる。
仕方無く渋々咲子の隣に脚を投げ出しながら座る僕。

『線香花火しよ?』

咲子が線香花火を手渡して来たので、僕はゆっくりそれを受け取ってマッチの炎を近付けた。
パチパチと燃え盛る線香花火を見下ろしていると、思わず線香花火に吸い込まれそうな感覚にクラクラ陥った。
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