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人魚島
第2章 人魚島
暑苦しい7月半ば、僕は人魚伝説の残る人魚島にやって来た。
下船するとすぐさま美少女が駆け寄って来た。

『篠山春樹じゃろ?』

生々しい広島の訛りで彼女は白いシャツに赤いスカート、茶色のサンダル姿でモジモジしながら僕を見上げる。

『魚沼さんかな?』

『せやで、魚沼咲子じゃ』

咲子は青々とした長い黒髪を潮風に靡かせながら頷いた。
本当に可愛い。
僕の中学校に居る女子、マドンナ的存在冴場さんより可愛らしい。
ガチャガチャの歯を剥き出しにしながら『間に合って良かったけん』と笑う。
歯並びこそは悪かったが可愛らしい顔立ちだ。
愛くるしいアイドル顔、否、そこらのアイドルグループの女の子より可愛い。
背丈はスラッと157㎝程、小麦色に焼けた生足が眩しい。

『自転車で来たけん、後ろ乗るじゃろ』

咲子が船着き場の隅に立て掛けられたボロボロの自転車を華奢なその指で指差す。

『ありがとう、けど僕重いし歩いて行こうよ』

『じゃあ、歩くけん、付いてきぃや』

咲子は僕から黒い合皮のボストンバッグを受け取るとガシャンッと自転車の前カゴに無造作に突っ込んだ。

『行く途中敦んちの駄菓子屋でアイスクリーム買ってくけん、小銭あるけん』

咲子は自転車をキィキィ押しながら『敦は中学の先輩、親友なんや』とニコニコする。
やや釣り上がった目がフンワリ穏やかに微笑む。
咲子からは磯の香りや僅かな汗や年頃特有のシーブリーズの爽やかで甘い香りがしていた。
僕は咲子に緊張しながら『学校では何部?』と訊ねた。

『うち?ああ、吹奏楽部と陸上部掛け持ちやけん、忙しいんじゃ』

『どっちが好きなの?』

キィキィと長い船着き場を横切って行く。
パチパチと煙がテトラポットから上がっている。
僕は目を凝らしてそちらに頭を向けた。
咲子が『チッ』と舌打ちする。
なんだろうか?と咲子を見れば咲子は右手親指の長い爪をガリガリ噛みながら『妹だ』と小さく唸る。
咲子14歳、年頃だ、妹をひけらかしたく無いのだろう。
僕にも4歳年下の妹がいるが友人には決して見せたく無いのが本音だ。

『挨拶しなきゃ』

僕が言うと『いらねぇよ』と爪をガリガリする咲子。
パチパチとテトラポットは近付いて来る。
何やら焼いているらしく煙が上がり香ばしい香りが立ち込め始めた。

『はよ行こうよ』

『で、でも』

『また夜に挨拶したらええ』
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