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人魚島
第10章 東京編
『赤鯛の奴が持ってたんだ。喉に引っ掛かってたんだよ、可哀想にな』

『で?見付かってからどうしたのよ?』

『ホオリに向かって鹽盈珠と鹽乾珠を差し出し『この釣針を兄に返す時、『この針は、おぼ針、すす針、貧針、うる針つまりは憂鬱になる針、心が落ち着かなくなる針、貧しくなる針、愚かになる針』と言いながら、手を後に回して渡しなさい。兄が高い土地に田を作ったらあなたは低い土地に、兄が低い土地に田を作ったらあなたは高い土地に田を作りなさい。兄が攻めて来たら鹽盈珠で溺れさせ、苦しんで許しを請うてきたら鹽乾珠で命を助けなさい』と言った。そしてワニに乗せて送って陸地迄見送ったのさ』

『何よ、それ?仲違いの呪いか何かかしら?』

『そりゃ愛娘の結婚相手が愛娘神殿に置いて陸地迄帰るんだから父上だって理屈は理解していても憤慨していたさ。で、肝心なホオリだけど、帰還してすぐに田畑を作った。ホオリは海神に言われた通りに釣針を返し、言われた通りに田を作った。海神が水を掌っているので、ホデリの田には水が行き渡らずホデリは貧しくなっていった。さらにホデリが荒々しい心を起こして攻めて来た。するとホオリは塩盈珠を出して溺れさせホデリが苦しんで許うと、塩乾珠を出して救った。これを繰り返して悩み苦しませるとホデリは頭を下げて、ホオリを昼夜お守りすると言ったらしいよ、馬鹿馬鹿しい兄弟だよね』

『それからホオリとホデリはどうなったんですか?』

『別にどうも、仲良くやってるみたいだよ?アマテラスとシンちゃんみたいにさ』

タマヨリヒメがアマテラスの肘を小突いた。

『うちは仲悪いわよ、あいつに散々金貸してやってるもん』

『シンちゃんはまだ若いから仕方無いよ?その内落ち着くよ?ボクの姉妹も若い頃は喧嘩ばかりで不仲だったよ、ボクが大人になってからは姉妹仲も順調になったけどね』

笑いながらショートホープを灰皿に押し付けるタマヨリヒメ。

『スサノウの奴は元気してるの?』

タマヨリヒメが悪戯っぽく笑いながらアマテラスに訊ねる。

『知ってるでしょ?あの馬鹿また私を天岩戸の中に入れる気だわ、朝から晩まで酒浸りでろくに働いて無いわよ、月読が良く言うわ『姉貴は引きこもり、弟はニート、長男は不良』ってね』

『ああ、そうなんだ。けどあながち間違って無いじゃん』

『酷いわね』

『まぁ、呑みなよ、肴いる?』
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