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人魚島
第2章 人魚島
ヌメヌメとテラテラと僅かに表面が濡れていて毛穴はある。
呼吸に合わせ上下する頬、ピンク色の素肌。
眉があろう箇所には2~3本しか毛か生えてい無い。
表面は多少デコボコしており、額には夏の暑さからか汗が浮いている。
口呼吸しか出来無いのか唇は乾いて乾燥し、皮が捲れていた。
先程から『ハァ…ハァ…』と口呼吸している。
咲子同じくガチャガチャの歯並び、大きな八重歯が目立つ。
それが蔓延の笑みを浮かべながら『名前は?』と可愛らしく訊ねて来る。

『さ、篠山春樹…』

『ハルくんかぁ』

"ハルくん"今先々月から付き合っている恋人の順子がそう僕を呼ぶ。

『秋刀魚、傷んだやつあるよ?食べる?』

花子が笑いながら僕の右手を掴んだ。
手先は柔らかく暖かく血が通っていて顔があれば普通の女の子のそれとなんら変わら無い。
僕はこの得体の知れ無い怪物に触れられた事実に驚いたが、花子になされるがままテトラポットに登った。

『お姉ちゃんも食べる?』

『いらんわ』

咲子は腕組みし、花子を睨む。
咲子の琥珀色の瞳が怒りの念に燃えていた。

『ハルくん食べよる?』

花子がフンワリ微笑みながら串刺しの秋刀魚を手渡して来る。
恐る恐るそれに手を伸ばしながら生唾を飲んだ。
これはドッキリか?悪戯か?勘繰ったがすれ違う漁師や海女さんは涼しい顔だ。
ドッキリや悪戯の類いでは無い。
大の大人が注意し無いのだ、花子は"顔が無い女の子"なのだ。
僕はしゃがみこみ、上目遣いで花子を見上げながら秋刀魚を食べた。
所謂お勤め品らしいが、脂が大量に乗っていて美味い。

『お味はいかが?』

花子がニコニコしながら火掻き棒で火種を引っ掻き回した。

『う、美味いよ』

僕は奥歯で咀嚼しながらゴクッとやり空いた右手で口元を拭ったが得体の知れ無い恐怖心からえずいた。

『見過ぎや』

咲子が僕の二の腕を掴み『お祖父ちゃん等に挨拶するで』と僕の手から秋刀魚を引ったくり花子にベチャッと押し付けると『行くけんな』と禅さんに手を振る。

『また後で』

花子がフンワリ微笑みながらテトラポットにもたれ掛かりながら手を振った。
キィキィと無言で自転車を押す咲子。

『………』

『………』

訊ねたい事は山程あったが、咲子が重く沈黙の為なかなか聞き出せ無い。
次第に入り組んだ卸し市場に辿り着いた頃、咲子がようやく重い口を開いた。
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