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いつくしみ深き
第1章 いつくしみ深き
 恋人、響の願い。それは「結婚式を挙げること」だった。

 だが休暇は一週間しかない。祐希は寝る間も惜しんで準備に奔走した。ありがたかったのは、病院が全面的に協力を申し出てくれたことだった。

 忙しい準備の合間を縫って、響の病室にも顔を出す。ここしばらく一進一退の状態が続いていたが、昨日あたりから病状は比較的落ち着いていた。

「あれ? 今日は休み?」

 今日の響はベッドを起こし体調も良さそうだった。平日の昼間に顔を見せた祐希に不思議そうな顔をする。あまり病室らしくない室内は、ここが緩和ケア病棟だということを示している。緩和ケア病棟というのは、延命治療を終えた患者が、残された日々を穏やかに過ごすための病棟だ。身も蓋もない言い方をすれば、近いうちに死ぬ患者のための病棟だということだった。響も入院時に長くてあと二週間だろうと宣告をされていた。だが今日で入院してすでに五十日。医師からはこんな状態でいるのは奇跡的だと言われていた。

「今週ずっと休みだよ」
「何で?」
「結婚式の準備」
「誰の?」
「俺とお前の」

 響は目を見開いた。そしてややあって以前よりやせた頬に柔らかい微笑みを刻んだ。響の微笑みは病状が差し迫るにつれ次第に透明になものになっている気が祐希にはしてならなかった。すでに響の心はこの世に存在していないんじゃないかと怖くなり、響の手を握った。暖かな手の感触に、響は確かに生きているのだと安心する。

「……覚えてくれてたんだね。いつ?」
「土曜日。病院がこの病棟の多目的ホールを貸してくれた」
「わかった。それまで頑張って生きていないとね」
「絶対に大丈夫だって!」
「……うん」

 響は祐希の手を握り返し、はにかむように笑った。
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