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いつくしみ深き
第1章 いつくしみ深き
 本来ならここで二人が退場して終わるところだが、今回は二人が参列者を見送る形にした。祐希が参列者に頭を下げた。

「皆様、本日はお忙しい中、私達二人の挙式に参列してくださりありがとうございました。このような結婚式など、自己満足に過ぎないと言われるかもしれません。ですが俺は思い出が欲しかった。響と共に生きて、愛し合ったという証がどうしても欲しかったんです。だから……」

 嗚咽であとの続かない祐希に代わり、響が言葉をついだ。

「僕の長くはなかった人生の最後に、いい思い出ができました。先生、看護師さん、祐希のご家族。本当にありがとうございました。そして父さんと母さん。式に来てくれてありがとう。同性愛をあれほど嫌っていたあなた方が、まさか結婚式に来てくれるとは思いませんでした。でも僕は、生まれ変わってもきっと祐希を愛するでしょう。それでも。もしこんな僕でも、あなた方の子供でいることを許してくださるのなら、ついでに先立つ不孝もお許しください」

 響は残された力を振り絞って声を出した。小さいけれどはっきりとした声音は、覚悟を決めた者だけが持つ、強さと慈愛に満ちていた。参列者は皆、号泣していた。特に響の母親は夫である響の父親にすがり付き泣き崩れていた。祐希も歯を食いしば縛り肩を震わせる。。

 ただ響だけが、凛としてそこにいた。

 挙式終了後、ベッドに横になると、ベッドサイドから見守る祐希と両親に、綺麗な笑みを見せた。

「父さん、母さん、祐希……。ありがとう……僕は幸せ者だ」

 響はゆっくりと目を閉じ、それが響の最後の言葉となった。

 響は、それ以降一度も意識を取り戻すことなく、二日後両親と祐希に見守られながら天国に旅立っていった。控え目な響らしい、静かな最期だった。
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