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ぬばたまの 夜に抱かれ 望月の 刻のゆくさき 夢のゆくさき
第1章  
 灼けつく日射しが大地を焦がし、陽炎がまるで透明な焔のようにゆらゆらと揺らめいている。
 険しい山肌にへばりつくように作られた棚田は渇き切ってひび割れ、萎れた稲が地に這いつくばるばかり。

 この集落一帯ではここ数ヶ月というものの、一滴の雨すら落ちていなかった。すでに昼を過ぎたが、雲一つなく、夕立の気配はまったく感じられない。

「今日も雨が降る様子はありませんな」
「困ったものだ」

 集落の長は恨めしげに空を見上げた。美しく澄んだ青空からは、熾烈な日差しが眩しく集落を照らしている。

「……このままでは作物が全滅してしまいます。地主神様へ雨を乞うてはいかがでしょう」
「ふむ」
「捧げ物ならば、相応しい者がおりましょう」
「いよいよ『あれ』を捧げる時が来たのか」
「はい」
「よし。『あれ』を地主神様の祠に連れていけ」

 長たちに「あれ」と呼ばれたのは、集落の外れに住む身寄りのない少年だった。少年はわずかに湧き出る清水で身を浄めるよう言い渡され、糊のきいた真新しい着物を手渡された。着物の色は雪のような純白。いよいよ「その時」が来たのだと、少年は悟った。
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