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ぬばたまの 夜に抱かれ 望月の 刻のゆくさき 夢のゆくさき
第1章  
「あなたが地主神様なのですか? もっとお爺さんなのだと思っていました」
「我も神の端くれ。どれだけ年経れど、老いることはない」

 地主神はこの土地のご神木、樟の化身だった。
 今さらながら神を目の当たりにしたことに気づいた少年は慌てて姿勢を正し、深く叩頭して願い出た。

「地主神様、どうか雨を降らせてください。このままでは作物が枯れ、集落の皆が飢え死にしてしまいます。僕はこの身を贄として捧げられるために、今まで生かされてきました。贄として捧げられるのが僕の役目。ですからどうか僕の命を使って雨を降らせてください」

 地主神は懸命に伏し願う少年を見た。
 年の頃は十ぐらいか。ひどく痩せているので幼く見えるが、もう少し年上かもしれない。
 そして少年の髪は人には稀な紅い色をしていた。血の色をそのまま髪にしたような紅だ。人は異なるものを恐れ、排斥しようとするもの。少年は紅い髪を持つがゆえに、神に捧げる贄として育てられたに違いない。

「本来ならば天候は人の力など及ばぬもの。だが進んで贄になるというお前の心根に免じて、雨は降らせてやろう。そこで見ているがいい」

 地主神は懐から扇を取り出し、舞を舞った。灯りのない真っ暗な祠の中で、地主神の体は淡く輝いて見える。地主神が手を返すたびに真っ白な扇が閃き、まるで白い蝶が舞っているようだった。
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