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ぬばたまの 夜に抱かれ 望月の 刻のゆくさき 夢のゆくさき
第1章  
 少年が目を覚ますと、地主神がその場に力なく倒れ伏していた。慌てて駆け寄り地主神を助け起こす。

「地主神様、一体どうなされたのですか!?」
「雨乞いには贄が必要だ」
「え? でも僕は生きて……。あっ!」

 地主神の言葉の意味することに、少年は気づいた。先程の雨乞いの「贄」は、少年ではなく地主神自身だったのだ。

「どうして……」
「ふ、お前のような年端もいかぬ人の子を、贄にする気はない。贄として逝くのは、古ぼけた我でよい」

 地主神は切れ長の目を細めた。そうすると意外なほど優しい顔になる。

「我は人ならぬ身ゆえ、すぐには逝かなかった。だが、もうじき力は失せ露と消えねばならぬ。そこでそなたに願いがある。我はこの土地で生まれ、長い長い間この土地を見つめ続けてきた。我はこの土地を愛している。我を継いで次代の地主神になり、この土地を守ってはくれぬだろうか」
「僕でよければ。でもどうすればいいのですか? どうすれば地主神になれるのですか?」

 少年の代わりに自らを贄に捧げた地主神。少年は地主神の願いを容れた。この土地を愛しているかと聞かれたら、今の少年に是とは答えられない。だが、地主神の最後の願いを断るのは躊躇われた。どのみち集落に戻ったところで少年には居場所などないのだから。
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