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ロリちゃん作品集 (一章読み切り式)
第37章 引っ越し
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「イヤ! 絶対イヤっ!!」
言いながら階段を駆け上がってくる麻菜の声。
いつもの、トトトとは違う。
「麻菜っ! 待ちなさいっ!」
麻菜の母親の声が聞こえたと思ったら、いきなり部屋のドアが開いた。
「お兄ちゃーん……」
麻菜がいきなり抱き付いてくる。
「ごめんなさいね。麻菜、帰るわよ」
「イヤっ!」
「麻菜? どうしたんだ?」
俺は勉強机に着いたまま、呆然とするだけ。
親が見ている前で、俺に抱き付くなんて。関係がバレたら、麻菜だってただじゃ済まない。
「どうしたんですか……?」
麻菜の母親に、恐る恐る訊いてみた。
「主人の国内での転勤が決まって、引っ越すことになったのよ。それを嫌がって……」
引っ越し……。
麻菜が遠くへ行ってしまう……。
「残るってきかないんだけど、まだ小学生じゃね……。麻菜、帰るわよ」
「イヤっ!」
麻菜は、泣きながら首を振っている。
母親の言うことは最もだ。
高校生くらいなら一人暮らしも可能だろうが、完全な引っ越しなら家も手放すだろう。
俺の母親も来て、2人で麻菜を宥めている。
「少し落ち着くまで、いいですよ? 引っ越しの準備もあるでしょう?」
俺の母親の言葉に、麻菜の母親は礼を言って戻っていった。
「俺が話を聞くから。母さん、仕事だろ?」
「もう少ししたら、出なくちゃいけないんだけど……」
俺の母親は看護師。出勤予定は、一階のリビングのコルクボードに貼ってある。
「じゃあ……。任せたわよ? 麻菜ちゃん。落ち着いたら、家に戻ってね?」
麻菜は何も答えなかったが、母親は静かに部屋を出て行った。
「お兄ちゃーん……」
どうしたらいいのか、俺にも分からない。
いや。どうしようもないのかもしれない。
俺達の関係をバラせば、余計に引き離そうとするだろう。それに麻菜だって、引っ越し先で新しい恋人を見つけるかもしれない。
いつか離れていくだろうとは、頭の隅で考えていた。麻菜に年相応の恋人が出来たなら、俺は黙って引くしかない。
でもそれが、こんな形だなんて……。
「麻菜……」
それ以上の言葉がかけられなかった。
家族が引っ越すなら、一緒に行った方がいいのは確かだ。
それでも、麻菜を放したくない自分がいる。
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