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悠一郎の独り言
第5章 2017年11月14日(火)22:49
「どうぞ…」

しぼむような小さな声で言うと、彼女は座り画材を出し始めました。
そして2つの絵がまた並びます。
この前は、色の違いにショックを受けましたが、今日は大丈夫でした。
彼女の色彩は好きです。
けど、自分が出す色彩は安心する感じがするんです。
これはきっと私しにしか出せない色なんだと彼女のおかげで気がつくことができました。

「いつも、この辺りを描いていますよね。人物画とかは描かれないんですか?」

「…人は…苦手なので…」

彼女がいる前で人が苦手だと言ってしまって少し後悔しました。
そして何も話せない私は黙々と描くしかありません。

「そうですか…でも、すごく優しい絵を描かれるので…うらやましいです」

はにかみながら言われると照れてしまいます。

「沙羅さんの絵も…暖かくて…私は好き…です」

その言葉に沙羅さんの顔が不思議そうな顔をしました。
何か変なことを言ったかなと思っていると控えめに口を開きます。

「私…名前言いました?」

その言葉で漸く彼女の不思議顔の意味が分かりました。
それはそうですよね。
お互いに名乗っていないのに名前で呼ばれれば良い気持ちにはなりません。
私は慌てて昨日の出来事を話しました。

「父が言っていた方は貴方だったんですね」

と納得をされました。
マスターが私のことを話してくれていたと思うと嬉しく思います。

「でしたら…お名前教えてもらってよろしいでしょうか?」

「あっ…田辺…悠一郎と言います…」

いきなりの自己紹介でそれしか言えません。
もっと話せれば良いのですが…何回も言っているとおり、これが精一杯なんです。

「悠一郎さんですね…」

にっこり笑って私の名前を呼んでくれるのです。
嬉しくて踊りだしてしまいそうでした。
↑嘘ですけど…

「どうやったら、悠一郎さんのような色がでるのでしょうか?」

私の絵を見ながらポツリと言います。
こんな地味な絵を気に言ってくれる沙羅さんは女神様です。
でも、やはり私には彼女の絵の方が素敵に見えて口に出して言ってしまいました。

「私は、沙羅さんの絵の方が温かみが合って好きです…こんな絵が部屋に飾られたら素敵でしょうね。殺風景な部屋がパァッ華やぎそうです」


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