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淫らに甘えて濡れ咲いて
第2章 第一章 政略結婚
 タラタラと今の原状について説明を続ける使者に、痺れを切らせたのはリーリアムの方だった。

 「…要は、我が国を守ってやるから代わりに二人いる姫のどちらかを差し出せ、と言うことでよろしいのですか?」

 使者は少し面食らったように目をぱちくりとさせたが、すぐに平静を取り戻して持っていた書面を閉じると「要約するならば、そう言うことでございます」と頭を垂れて口にした。
 息を飲んで静まり返った謁見の間で、リーリアムが分からないほどの小さなため息を吐いた。

 「承知いたしました。ウェトーの使者殿。長旅でお疲れでしょうし、このお返事は明日までお待ちください」
 「お気遣い、感謝致します」

 脇に控えていた従者が使者を連れて広間を後にすると、相変わらず蒼白な顔の家族を前にして、リーリアムは口を開いた。

 「父上、母上。私は来月には19です。そろそろ嫁ぐ相手もいて良い年頃ですから、ウェトーには私が参ります」
 「なっ!」

 誰よりも早くに声を発したのは姉のカレンドゥラだった。
 真っ白な肌をさらに白くさせて、口元に手を当てたカレンドゥラが目を見開いてリーリアムを見つめた。
 大きなアメジスト色の瞳が溢れてしまうのではないかと言うほどに見開かれ、みるみるうちに涙が目尻に盛り上がってくる。

 「お姉さま、そんな風に泣かないで下さい。我が国には姫しかおりません。どちらかが国に残り、父上の隠居後の国を守ってくれる殿方をお迎えせねばなりません。それはお姉さまの第一皇女としての大切な使命です。…どんな形であれ、国を守るためならばそれができるのならば、私は喜んで嫁ぎますわ」

 意思の堅い瞳は、泣きはらすカレンドゥラを写し心なしか少しだけ物悲しく揺れたように見えた。


 その後、国王は苦渋の決断を下した。
 いくら国土の豊かな国だからと言って、我が娘を国のために他国へ嫁がせなくてはならないという悲しい事実になかなか腹を括ることが出来ずにいた。
 何せ、我が娘達には幸せになって欲しいと望み、国のための結婚など眼中になく、そろそろ良い人を見付けられるようにと準備に勤しんでいたところだったのに、と両親が涙を見せていた。
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