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喝采
第11章 マタイ受難曲
 ――四月十五日、毎朝新聞芸術欄。


 四月十四日に東京オペラタウンミツタケメモリアルで行われた「コレギウム・トウキョウ」の「マタイ受難曲」公演は、近来稀にみる出色のものとなった。

 キリスト教の伝統に則り、聖金曜日に行われた当公演。オーケストラ、合唱、ソプラノ・リピエーノ、ソリストという複雑な構成の三時間近い大曲を一糸乱れることなくまとめ上げた、斉賀一臣のリーダーシップはさすがだった。

 ソリストではエヴァンゲリスト役の谷田部拓人が思わぬ拾い物だった。オペラへの出演が多い谷田部だが、今回の公演では物語の牽引役としてその隠された実力を発揮。畑違いと目されていた谷田部をわざわざ起用した斉賀の目は確かだったといわざるを得ない。

 また今回特に見事だったのはアルトを歌ったカウンターテノールの雫石玲音だ。ちょうど一年前の「マタイ受難曲」の出演を交通事故でキャンセルして以来、雫石にとって久し振りの出演となる。以前からの聖性すら感じさせる声はさらに安定と凄みを増し、「憐れみたまえ、わが神よ」のアリアでは、ハンカチで目頭を押さえる観客が続出する程だった。雫石を越えるカウンターテノールは、当分の間聴くことはできないに違いない。

 今回の公演を生で聴くことができた観客は、幸運だったといえよう。

【岡村亨・音楽評論家】



「喝采 ―Curtain call―」 完
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