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喝采
第1章 ミサ曲ロ短調
「意味がないと友達になっちゃいけないのか? そんなの友達じゃねえよ。友達ってのは、もっと気楽で、もっとくだらなくて、でも、すごくいいものなんだぜ」

 谷田部は雫石を促し歩き始めた。だが、雫石は立ち止まったまま、動こうとしない。

「……そういうものなのか。僕には友達がいないからよくわからない」
「そんなことねえだろ」

 いくらなんでも、友達が一人もいないということはないだろう。谷田部は笑って首を振った。

「僕には友達など作る暇は与えられなかった。おまけにいつも不用意な発言で他人を怒らせるばかりだ。だから友達などいるはずもない」

 確かに雫石は口下手だとは思う。谷田部も初対面で雫石と一触即発の状態になった。だが、少し話せばおそらく本来の、優しく繊細な部分が顔をのぞかせる。友達がいないというのは、雫石の思い込みに違いない。谷田部以外にも、本当の雫石を知る人間はいるはずだ。
 たとえば斉賀のように。

「斉賀さんは玲音のことが好きだと思うぜ」

 谷田部をキツい眼差しで見つめたあと、ようやく雫石は歩き始めた。キャリーケースを転がす重たい音と杖をつく固い音が響く。

「斉賀さんは僕にとっては父親以上の人だ。友達などと気安く呼べる人ではない」

 どうやら古い知り合いらしい雫石と斉賀。二人の関係が谷田部にはいまいちよくわからない。

 ホールを出るとすぐに店にたどり着いた。場所がわかりづらいことと、駅とは反対方向のため、穴場的な存在の店だった。
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